ボルネオで取り組む環境問題
緑の回廊プロジェクトは、キナバタンガン川沿いに残る熱帯雨林を所有者から買い取ることでアブラヤシプランテーションの開発が分断してしまった森をつなぎ、生物多様性を保全するとりくみです。
私たちの活動地域はボルネオ島北東部を流れるキナバタンガン川流域。世界でもまれな生物多様性を誇ったこの地域も、急激に進んだ大規模な開発によって広大な熱帯雨林がアブラヤシプランテーションへとなってしまいました。1970年代前半から2010年の40年でサバ州全体(北海道とほぼ同じ大きさ)の40%もの熱帯雨林が消失したというデータもあります。

図:キナバタンガン川流域の様子。黄色が示す保護区、保存林が分断されているのがわかる
野生生物保護区はアブラヤシプランテーションの海に浮かぶ小島のようです。保護区周辺の土地は政府や個人が所有していて、私有地は少しづつプランテーション化が進んでいます。このまま何もしなければ残った熱帯雨林もさらに開発が進み、動物たちの生活はより大きな危機にさらされます。
野生動物のいのちをつなぐためには広い森が必要です。生息域がせまければエサが不足し、大きな群れを維持できません。移動も制限され、いずれは絶滅の道をたどります。広大なアブラヤシプランテーションは元には戻せませんが、残った熱帯雨林がつながっていれば、いまのいのちを未来につなぐことができます。
国際自然環境保護連合(IUCN)が提唱している「生物生息空間の形態・配置の6つの原則」でも「分断された地域は回廊でつなげるのが良い」と定義されています。

図:生物生息空間の形態・配置の6つの原則出典:ウィキペディア
キナバタンガン川流域の豊かな生物多様性は1999年に政府が「Gift the Earth(地球の贈り物)」と名付ける素晴らしいものでした。その後、WWFマレーシアを中心に関係者の努力が実り2002年1月にサバ市長が「命の回廊(Corridor of Life)発表しました。自然保護とエコツーリズム、住民の生活の繁栄も含め、自然を管理しながら地元の人々や企業にも発展をもたらすプランです。
しかしプランはうまく進まずコンセプトだけが一人歩きし、時間が過ぎていきます。そんななか、2004年に現地へ入った初代理事長の坪内俊憲氏が現地州政府機関と協力して「保護区をつなぐためには、あいだに残っている熱帯雨林を所有者から買い取って守る方法が最も有効的」と現地に設立されたのがが Borneo Conservation Trust(BCTサバ)であり、その後に、計画を支援するために設立されたのが私たちBCTJです。
土地の獲得プロセス
川沿いの熱帯雨林は公有地と私有地に分けられます。州が所有する土地は「公有地」でり買うことはできませんが、「私有地」は所有者から買うことができます。
土地を買うためには、はじめに「どこの土地を買いたいか」を決める必要があります。大切な支援金を有効に活用するため、緑の回廊プロジェクトの対象地となっている地域から適切な土地を選択し、実際に訪問して森を調査します。獲得に適すると判断されれば、その土地の所有者に話をもちかけます。所有者から買い取りの相談がもちかけられることもありますが、その場合ももちろんその土地を精査し、判断します。
所有者は地元村民です。価格交渉が成立すれば正式な獲得に向けての手続きが始まります。
土地価格はマレーシアの経済発展や貨幣価値の上昇に伴って、ここ10年ほどで1.5~1.8倍になりました。現在、1ヘクタールあたりの獲得価格はおよそ250万円です。
2008年からスタートした緑の回廊プロジェクトhこれまでに個人や企業のみなさまのご協力で1.6億円の支援金が集まり、112ヘクタール(1ヘクタール = 100m x 100m)の土地を獲得してきました。
土地の獲得は通常、1区画単位(2~5ヘクタール)で行います。1区画分の費用をご支援いただいた企業や個人の方には、土地に好きな名前をつけていただくことができます。獲得した土地が記録にも、人々の記憶にも残ります。
サバ州内の土地は、州の土地管理局によって管理されています。ここで土地登記の書き換えなど必要な手続きが住めば、土地の獲得作業が完了します。サバ州では外国人の土地所有を禁じているため、獲得の際の名義人はBCTサバの代表者の名前を使用します。
団体の名前にもなっている Trust とは「委託者から預かった土地を特定の目的のために管理する」ことを意味します。土地の買い取ることは、「信託」的な保全活動の第一歩で、開発などのリスクから土地を守るために所有権を取得し、その後は「自然環境を守る」という目的のもとに土地を長期的に管理していくのが、信託の考え方に基づいた活動です。
また獲得した土地は「キナバタンガン川下流域野生生物保護区」として熱帯雨林のまま残されるよう、サバ州政府へ働きかけます。実現には時間がかかりますが、現在は2019年までに獲得した区画が保護指定されるよう、サバ州政府による調整が進んでいます。
獲得した土地の名前と面積

2008年
小さな森 2.12ha
2009年
ゾウさんの森 1.68ha | サラヤの森1 2.14ha | サラヤの森2 3.96ha
2010年
パールの森ミニ 6.00ha | サラヤの森3 1.80 ha | 草太郎の森 2.20 ha
2011年
ダヤンの森 2.68ha | ハンティングワールド共生の森 1.60ha | サラヤの森4 2.04ha | カンバッジの森 3.20ha
緑子の森 1.24ha
2012年
吊り橋の森 3.81ha | コープの森1 2.28ha | サラヤの森5 1.84ha | ふくちゃんの森 2.46ha | コープの森2 4.00ha
バナナリパブリックの森 1.99ha
2013年
ダヤンの森2 2.01ha
2014年
幸の森 2.40ha
2015年
コープの森3 2.00ha | ハンティングワールド共生の森2 1.49ha | ツノサイチョウの森 1.34ha | オランウータンの森 5.56ha
2016年
ボルネオゾウの森 1.96ha | 生活の木の森 0.96ha | コープの森4 0.82ha | ヒゲイノシシの森1 0.95ha
ヒゲイノシシの森2 0.81ha
2017年
サラヤの森6 4.20ha | ダヤンの森3 1.96ha | コープの森5 2.8ha
2018年
サラヤの森7 5.99ha | ハンティングワールド共生の森3 3.58ha
2019年
サラヤの森8 2.76 ha | テングザルの森 2.76 ha
2020年
ジプシーの森 1.5ha | バンテンの森 0.498ha | 生活の木の森2 1.5ha | サラヤの森9 4.49ha
2022年
ハンティングワールド共生の森4 2.67ha | マレーグマの森 2.66ha | サラヤの森10 2.83ha
2023年
ダヤンの森4 1.42ha | ダヤンの森5 1.31ha | カルビーの森1 1.38ha | サラヤの森11 1.40ha | サラヤの森12 1.40ha | センザンコウの森 1.40ha
野生動物が生きていけるのは、そこに熱帯雨林があるからです。動物たちがおだやかに暮らせる森を少しでも多く未来に残したい。そんな思いで私たちは活動を続けています。ご支援をよろしくお願いします。