画像:日本自然保護協会
2023年11月9日に行われた第1回のセミナーでは、企業活動と自然資源・生物多様性との関わりや「ネイチャーポジティブ」に取り組む意義が解説され、企業の生物多様性保全への取り組みや今後注目すべき動きについて語られました。
ネイチャーポジティブとは
「ネイチャーポジティブ(自然再興)」とは、生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せることを意味します。
2030年までに「ネイチャーポジティブ(自然再興)」を実現することが、2050年ビジョンの達成に向けた短期目標です。「2030年ネイチャーポジティブ(自然再興)」の実現に向けて、人類存続の基盤としての健全な生態系を確保し、生態系による恵みを維持し回復させ、自然資本を守り活かす社会経済活動を広げるために、これまでの生物多様性保全施策に加えて気候変動や資源循環等の様々な分野の施策と連携し取り組みます。
https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/j-gbf/about/naturepositive/
ネイチャーネガティブは、ネイチャーポジティブとは対比の言葉として使われ、生物多様性の損失を意味します。
ネイチャーネガティブな影響は、生態系や生物多様性の喪失、地球温暖化、自然資源の乱用などに表れ、これらの問題が私たちの生活や他の生物に対して深刻な脅威をもたらしています。
「今世界で求められている『ネイチャーポジティブ』とは?」 道家哲平氏(日本自然保護協会)
戦後から今なお続く森林伐採による影響は大きく、今のままではネイチャーネガティブが進んでしまうと述べられました。
世界の経済活動の44兆ドルが自然資源に頼っているため、ネイチャーネガティブが続くと健全な水、空気、土、そこに住む生物にとって不安定化がもたらされます。つまり、自然なしに経済や社会の繁栄はありません。そこで、今後はネイチャーポジティブにより、社会に変革を目指す必要があるとおっしゃっていました。
これからは「使う以上に自然を回復させる」までがセットになると伝えられました。
「ネイチャーポジティブ実現に向けて企業の求められる役割」
藤田 香氏(東北大学 グリーン未来創造機構/大学院生命科学研究科 教授)
実際に、企業はどのようにネイチャーポジティブ実現を目指すべきかについてポイントは以下のようにまとめられました。
・サプライチェーンのリスク管理
・自然の保全・再生の取り組み
・生物多様性の情報の収集や利活用
・情報開示(TNFD)
中でも企業は情報開示(TNFD)がツールや評価で終わることなく、なぜ開示する必要があるのかを考えることや、
優先的な地域や原材料を洗い出し、深掘りすることが重要であると説明されました。
TNFDと金融
TNFD(Task Force on Nature-related Financial Disclosures):自然に関連する金融情報開示に関するタスクフォースを指します。
これは、企業や金融機関が自然環境に対する影響やリスク、機会について透明性を持って開示を推奨するための国際的な組織です。
TNFDの設立は、生物多様性の喪失や生態系への影響など、自然環境への取り組みが金融の側面からも考慮されるべきだという認識に基づいています。
具体的な例として、キリンホールディングスが2022年7月に初めてTNFD(試行版)に沿った報告書「環境報告書2022」を発表しています。
情報開示がツールや評価で終わることなく、なぜ開示する必要があるのかを考えることや、優先的な地域や原材料を洗い出し、深掘りすることが重要であると説明されました。
ESG投資: 環境(Environmental)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの要素を評価して行う投資をESG投資と呼びます。近年ではこの投資方法が拡大しているようです。
目先の利益ばかりを優先し、高い収益を上げていたとしても、事業そのものの「持続可能性」、つまりサステナビリティを重視しないビジネスの在り方は問題視されるようになりました。そうした企業は、金融界からの提言や指摘を受け、ビジネスの在り方を見直すよう求められるだけでなく、実際に投資価値の低下や、投融資の引き上げの対象と見なされるようになったのです。
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/5152.html
金融機関や投資家が、投融資の判断をする際に重視するのは、企業が開示している「情報」です。
企業による情報開示により、投資家や金融機関が企業の自然環境に対するリスクと機会をより良く理解し、環境に対するポジティブな影響を持つビジネスに資金を供給しやすくなります。つまり、企業は情報開示に努める必要があるということにつながるとまとめられました。
4回にわたるセミナーであるため、12月12日に行われる第2回のセミナーにも参加し、理解を深めようと思います。
記事:インターン 武田