国立研究開発法人海洋研究開発機構(以下:JAMSTEC)は、米国ハワイ大学マノア校、宮崎大学、チューリッヒ大学、横浜市立大学、マレーシア国サラワク州森林局、高知大学との国際共同研究チームで、光学センサーが搭載された高頻度高解像度衛星 PlanetScope (以下:PlanetScope衛星)が観測した分光データを活用して東南アジア熱帯域に見られる「一斉開花」と呼ばれる、一定の時期に広範囲の植物が花をつける現象を広域的でとらえることに世界で初めて成功しました。
一斉開花とは
一年中温暖で多湿な熱帯雨林では、ある時突然、多種多様な植物が次々と開花します。この現象は『一斉開花』と呼ばれます。「一斉」といっても全ての植物が一度に開花するわけではなく、少しずつ時期のずれた開花が一定期間、全体では3か月ほど続きます。
一斉開花は野生動物の行動にも影響を与えることが知られています。たとえばヒゲイノシシは繁殖期を一斉開花の時期に合わせます。普段は単独で生活しているオランウータンもこのときばかりは複数頭が集まって行動するようなパターンが見られることが報告されています。
人工衛星
2019年9月にスマトラ島やボルネオ島などで起きた大規模な森林火災を覚えていますか?現地にいても、被害の全容を見ることはできません。しかし、人工衛星からの映像を使えば広範囲に及ぶ火災を確認することができます。
人工衛星は宇宙から地球を観測し、毎日の天気予報や地球環境問題に関する情報提供においても活躍しており、私たちの生活にかかすことのできないデータを宇宙から届けてくれるのです。
今回は人工衛星のデータから明らかになった、一斉開花の研究内容を紹介します。
研究の概要
図1:マレーシア国サラワク州に位置するランビルヒルズ国立公園に設置されたクレーン
2019年、熱帯樹木の植物を長期的に観測しているボルネオ島マレーシア領サラワク州のランビルヒルズ国立公園[地図]で一斉開花が起き、大規模な調査が行われました。
林冠クレーン周辺(図1参照)の樹木の目視観測やタイムラプスカメラによる定点撮影に基づいた地上真値情報と、 PlanetScope 衛星が観測した分光データを照合させるという方法での調査では、PlanetScope 衛星により観測された合成画像においてクレーン周辺の森林調査区と同様に樹冠が白く変化している地点が、広範囲でみられました。
色の変化があった領域は、低地フタバガキ混交林が広がっている場所と重なっています。つまり、林冠クレーン周辺の広い範囲において、樹種が同調して開花したことが示唆されました。まさしく「一斉開花」です。この現象を広域でとらえることに成功した世界で初めての成果となりました。
この研究のココがすごい!
これまでの衛星観測システムは頻度も解像度にも技術的な限界があり、特に熱帯地域の衛星写真においては雲が陸地を覆うことで調査対象地の場所のデータがとれないことがよくある、といった課題がありました。しかし日々進化する衛星技術のおかげで高頻度・高解像度の衛星観測システムである「PlanetScope 衛星」が誕生。前述したような課題は解決し、一斉開花期前後において熱帯雨林がどのように変化していくのかを正確に観測することができるようになりました。
今後の展望
今回の研究から得られた成果に、過去のデータや今後のさらなる調査結果といったさまざまな知見を組み合わせることで、熱帯生態系の評価における精度は飛躍的に上昇することが期待されます。このような研究とその成果は、地球環境研究分野で最新の科学的な知見に基づき、国を超えた貢献ができるようになることでしょう。また、一斉開花現象を分析・理解することができるようになっていけば、野生動物の行動もより予測しやすくなり、さらなる研究の発展につながると考えられます。
インターン:武田茉由子