イベント

ゾウのシンポジウム@日本 開催報告

2018年10月28日、BCTJは東京都台東区の上野科学博物館日本館講堂で「世界のゾウを考えるシンポジウム@日本」を開催しました。

熱気あふれる満員の会場


動物園でゾウの飼育に携わる東京都恩賜上野動物園の乙津和歌氏、愛媛県立とべ動物園の椎名修氏、アフリカゾウの保全活動を続けるNPO法人アフリカゾウの涙の山脇愛理氏、ボルネオゾウの保全活動を展開する認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパンの坂東理事が登壇し、日本のゾウ飼育の現状や野生のアフリカゾウ、ボルネオゾウを取り巻く環境と保全活動について発表しました。

異なる分野の専門家が一堂に会するイベントに、会場は130人を超える大勢のお客様で満員。ゾウという動物の人気はもちろん、情報提供の重要さを感じさせます。

東京都恩賜上野動物園 乙津和歌氏

乙津氏は、日本のゾウ飼育について話しました。明治時代の上野動物園で始まった日本のゾウ飼育の歴史ですが、第2次世界大戦中に悲劇が襲います。動物が外に逃げたら危険、という理由で大型動物が大量に殺処分されることになったのです。もちろんゾウも例外ではなく、戦争終了時に残ったゾウは全国でわずか2頭でした。

戦後の復興に合わせて動物園の数も増えていきます。現在のような規制がなかったため海外からたくさんの動物が輸入されました。

ゾウの飼育頭数も増えていき、現在の日本では32頭のアフリカゾウと78頭のアジアゾウが飼育されています。

また乙津氏は、これからの動物園は域内保全へも積極的に取り組んでいく必要があることを聴講者に伝えました。動物園で飼育されている多くの動物の故郷は日本ではありません。動物園は、動物の魅力を来園者に伝え、動物たちが本来生きている生息地の環境や保全について考えてもらうという大切な役割も担っているのです。

愛媛県立とべ動物園 椎名修氏

2人目の椎名修氏はアフリカゾウ飼育の第一人者。とべ動物園では3頭の繁殖に成功しています。1988年9月から雄ゾウ1頭と雌ゾウ1頭の飼育を始め、早くから繁殖に向けての基礎研究とデータの収集、行動調査が始まりました。2006年に生まれた1頭目こそ母ゾウが育児放棄したため人工保育での子育てとなりましたが、2、3頭目は母ゾウがしっかりとと育て、成長しています。

ゾウの子どもが生まれたことで、とべ動物園ではさまざまな形態のゾウ社会を形成することができました。母ゾウと子ども2頭(雌と雄)との3頭による同居や、母子と父ゾウが同居するという展示も実現しました。

雌ゾウを中心に家族単位で生活するのが野生におけるゾウ本来の姿です。これを母系集団と言います。雄ゾウは、幼い頃こそ群れの中で一緒に暮らしますが、成長すると群れを離れて1頭で暮らすようになります。このようなゾウの性質を理解した上で、データを丁寧に積み重ねながら実施した飼育によって実現したのが「年齢が異なる3頭の雌ゾウが一緒に暮らす」という野生と同じような母系集団による家族による生活なのです。

NPO法人アフリカゾウの涙 山脇愛理氏

3人目の登壇は山脇愛理氏。ケニアで獣医師として活動する滝田明日香氏とともにNPO法人アフリカゾウの涙で共同代表を務めています。

ゾウと人間との軋轢はケニアでも大きな問題です。現地で展開している木の苗を販売するビジネスや、ゾウが嫌いな蜂を飼うことでゾウを近寄らせず同時にハチミツで現金収入を得る養蜂のプロジェクトに取り組み、ゾウの畑荒しや貧困、森林伐採問題への対策を進めている様子を、普段なかなか目にすることのない貴重な写真とエピソードを元に山脇氏が紹介しました。

国際的に象牙取引の禁止が進むなかで日本では依然として全面禁止の姿勢をとらず、象牙取引・消費が進んでいます。日本は象牙消費国だ、という印象が世界に広まっているのです。欧米や象牙の生産国であるアフリカ諸国でさえも撲滅運動が進む中、日本はまだまだ後ろ向きと言わざるを得ません。象牙消費のほとんどは印鑑向けであるため、アフリカゾウの涙では印鑑への象牙使用禁止を今後も訴えかけていきます。

また、アフリカゾウを取り巻く厳しい環境を日本でも伝えるために「象牙を必要としない世代をつくる」ことを目標に No Ivory Generation Project を立ち上げました。絵本の出版と小学校への寄贈など、今後も積極的な啓発活動を行なっていく予定です。

BCTJ理事/旭山動物園園長 坂東元氏

4人目は、BCTJで理事を務める旭山動物園園長の坂東元氏。なぜ北国の小さな動物園がボルネオの保全活動に関わるようになったのかといえば、前理事長の坪内俊憲氏から「動物園は動物の命を預かっている。であれば、彼ら故郷に対しても何かすべきではないか」と発破をかけられたこと。すぐに現地を訪れて自然の素晴らしさと環境問題の深刻さを目の当たりにし、現地の要望も受けてボルネオゾウ活動を始めました。

ボルネオ島のサバ州ではアブラヤシのプランテーション拡大による熱帯雨林の減少が進み、野生動物の生息地は激減しました。北海道のシカと同じように、ゾウと人との衝突が大きな問題となってサバ州野生生物局を悩ませています。そこで旭山動物園は野生生物局と提携し、これまでにゾウを移動させるためのオリの寄贈、保護・治療施設の建設、4WD軽自動車の寄贈などを進めてきました。

日本の動物園ではまだほとんど例のない海外の域内保全活動をさらに進めるべく、6つの動物園(旭川市旭山動物園、豊橋総合動植物公園、那須どうぶつ王国、神戸どうぶつ王国、福岡市動物園、平川動物公園)と共同で『ボルネオ保全プロジェクト』を立ち上げました。寄付型自販機の設置による資金調達構想など具体的な取り組みがすでに始まっています。

パネルディスカッション

休憩をはさみ、BCTJ理事長の石田戢氏をファシリテーターに迎えてのディスカッションが始まりました。会場から寄せられた質問はどれも各氏の登壇内容をより深掘りするもので、聴講者の知識と関心の高さ、情報への渇望を感じるセッションでした。

乙津氏や椎名氏は動物園でのゾウの飼育環境について、坂東氏は現地のボルネオゾウ保護施設での飼育状況について、また山脇氏は象牙取引のより深い実態について、会場からの質問に応えながらさらに踏み込んだ話題を展開し、普段はなかなか聞く機会の無い話を聞くことができました。

会場にはイベントの協賛スポンサーであり、長期に渡ってBCTJを支援くださっているハンティング ワールド ジャパン様の限定バッグサラヤ様の商品や、関連団体・イベントの広報資料た展示され、来場された多くのみなさまが手に取っていかれました。

最後に

会場の下見をした時には「この広さで全員埋まるのかな」と一抹の不安があったものの、当日は立ち見を心配するほどのお客様にご来場いただき、主催者としてとても嬉しく思います。たくさんの方にゾウという偉大な動物の様々な情報を発信できたことで、シンポジウムにおける最低限の目標は達成できたと感じています。

ゾウは本当に大人から子どもまで人気のある動物です。みなさんも一度は、本物のゾウを見たことがあるのではないでしょうか。ただ野生のゾウについて、彼らが置かれている厳しい現状状を知っている方が少ないというのもまた事実です。

またボルネオゾウについても、生息地減少の背景にあるアブラヤシプランテーションの拡大と熱帯雨林減少の問題、人間の生活が実は深くつながっている事実については、まだまだ知られていません。

自然保護、生物多様性保全の問題に少しでも関心のあるみなさまには「何が問題で、解決のためにはどんな活動をすれば良いのか。どのように支援したら良いのか」そう言ったことをさらに知っていただくため、私たちはこれからも「知る機会と知りたい人とを結びつける場」を積極的に作っていきたいと考えています。

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